刃と鞘の擦れる音が響く。
実用には向かぬ、儀式用の刀だ。
女のことは、もういい。
邪魔になるから捨てたかったのだが、ウトゥクに命じられて手放せなかった。
もういいと思っているのに、呪われたようなこの身の重さは、
少なくとも半分はウトゥクのせいだと思えた。
こんな錆びの浮いた“思い出の品”を持たせて、一体俺をどうしようというのか。
しかしどこか、それを当然と感じる部分もあった。
歪な柄がよく手に馴染んでいる。
切っ先がまるで自分の指先のように感じる。
何であれ、彼と戦えばいいのだろう。
出逢わせてくれた。
神の取り計らいには感謝している。
捧げるように、構えた。
ところが、巨狗は襲ってはこず、踵を返して闇の中へ消えた。
キノアは弾かれるように後を追った。