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2011年11月30日

神官ウトゥク5

その足で二年、国中を歩いた。
はじめは夢遊病者のように。

そもそも、何一つ、決意らしいものはなかったのだ。
当然のこととして神官になり、理由もなく王を守ると誓った。
強いて動機を挙げるなら幼い憧憬のようなものだったのだろう。
迷いのなかった分、挫かれれば脆かった。

法衣のままでいたので、喜捨を求めるなどすれば、どうにか生きることはできた。

旅の中で、ウトゥクは徐々に目覚めていった。
敬愛すべき人がいれば、憎むより他ない人間もいた。
時には野盗や猛獣と戦った。
山河の美しさに、不意に涙を流した。

そして、アウカ人がどれほどこの国を貪っているかを知った。
農民は重税を課せられ、鉱山では毎日のように奴隷が死ぬ。
その一方で王たちはアウカ人の機嫌取りをしながら贅沢に暮らしていた。

本物の怒りを、宿した。

反乱を志す集団に何度か加わった。
しかし毎度、強い組織に育つ前に潰された。

心が折れかけていた時、
ようやく巡り逢えたのが、
アラカチャという男だった。
posted by 森山智仁 at 09:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月29日

神官ウトゥク4

王は謹んで、
荷車に満載した黄金をアウカ人に差し出した。

言葉は通じていない。
最大限の、降伏の意思の表明である。

それまでの護衛の道程を、
ウトゥクは現実のものと思えないままに歩いてきた。

戦って負ける想像さえしていなかった。
こんなことがあり得るのか?
戦いもせずに?

アウカ人の持つ火吹き筒とやらは圧倒的な威力だという。
前線の兵士たちはろくな抵抗も出来ずに倒れた。
ラヤンは王の決断を英断と言った。

ウトゥクは、心の置き所を見つけられず、独り野営地を離れた。
posted by 森山智仁 at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月23日

神官ウトゥク3

来た。
伝令の兵。
束ねたカプを揺らし、息を切らして。

心なしか、兵の顔色が冴えない。
長駆の疲れか?
気掛かりでも、直接話を聞くことはできない。
石段を駆け上がっていくのを見守る。

溜め息が聞こえた。
ラヤン。
気難しい神官たちの中で唯一ウトゥクが親しくしている。
歳は一つ上だが気は弱く、ウトゥクは弟のように接していた。

「どうした」
「お前はいいよな、ウトゥク。
今から戦いが楽しみで仕方ないんだろう」
「そうとも。
存分に腕を試せる」
「お前ならたくさん手柄を上げられるだろうな」
「ラヤン、お前も自分が思うほど弱くはないぞ」

小心で、内向的。
しかしそれ故にラヤンの技は合理的である。
ウトゥクほど武術の調錬に対して熱心ではなかったが、
膂力や胆力を備えれば一流になるとウトゥクは思っていた。

「戦なんて、おとぎ話の中のものだと思っていた」
俯いて、ラヤンが呟いた。
「アウカ人が来たと聞いた時もまだ実感は持てなかった。
自分には一生関係のないものと、何故か信じていた」
「怖いのか」
「当たり前だろう。
お前のような奴の方が珍しいんだ」

ラヤンは弱々しく笑った。
「何の知らせだかわからないが、
出陣の要請でなければいいと、
俺は今心から願ってるよ。
毎朝の祈りより真面目にな」

返す言葉が見つからなかった。
だが心の火が消えたわけではない。
こいつ一人ぐらいなら守りながら戦えるだろう。

改めて石段の上を見上げた。
その時、扉の奥から王の姿が現れた。
posted by 森山智仁 at 19:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月02日

神官ウトゥク2

出陣前の整列。
ウトゥクは初めて王の顔を見た。

深く刻まれた皺。
憂いを湛えた瞳。
傷んだ白髪からも崇高さが漂う。

ウトゥクの胸は歓喜に震えた。
命に代えても、あの方を守る。
心の中で呟き続けた。

戦を知らぬこの国が侵略を受けている。
それを、幸運とさえ思った。

並の神官ならば「いざという時」に備え、やがてその時を迎えずに老いていく。
しかし俺は巡り逢った。
それも最も力の漲る若い時分に。

現在、前線では王の戦士団が沿岸部の自警団と共に戦っているはずだ。
神官たちは宮殿の守りである。
しかし戦況如何では出撃もあり得る。
追撃か、前線しての迎撃か。

どうせなら強敵であってくれ。

駆け出しそうになる足を抑えながら、
知らせを待った。
posted by 森山智仁 at 22:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月21日

神官ウトゥク1

父が神官だった。
神官になった理由は、ただそれだけだった。
当時は何も疑問はなかった。

当然のこととして、神の教えや医学、行儀作法を習った。
武術も習った。
この国の近衛兵は神官の中から、武術に秀でた者が選ばれる。
近衛兵として身を立てることが、若いウトゥクの夢であった。

日夜、稽古に打ち込んだ。
神官式の杖術は様式を重んずるものであったが、
ウトゥクは戦士団の訓練にも加わり、
自らの技に実戦的な要素を加えていった。

生まれつき体格に恵まれていたウトゥクは、
戦士団においても一目置かれる存在となった。

アウカ人が現れたのはウトゥクが19の頃であった。
若い神官の心は、燃えた。
posted by 森山智仁 at 17:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月17日

少年パルタ14

「お前の手柄にもなるんだ。
感謝しろよ」

一人残っていた男が言い放った。

パルタが眠っている間に、
隊員たちは例の倉庫に夜襲をかけに行ったのである。

男を咎めている暇はなかった。
状況を把握しなければ。
槍をつかみ、走り出した。

天幕は倉庫からそう遠くない場所に張っていた。
すぐに辿り着く。
走りながら、嫌な予感がした。

夜襲をかけているならもう騒ぎが聞こえてもいい距離だ。
ならば、この静けさは?
既に事を終えたのか?

山の中腹から倉庫を見下ろした。
見張り。
平然と立っている。
以前見た時と何も変わらない。
攻撃を受けた痕跡はどこにもない。

胸が高鳴り、冷たい汗が流れ出した。

考えられることは一つ。
捕らえられたのだ。
それもごく短時間の間に、鮮やかに。

罠だった、ということだろう。
手薄と見せかけ、誘った。
国王軍はとうにこちらの存在に気付いていたのかも知れない。
あるいは見つける為の罠か。
いずれにせよ、これで完全に知られてしまった。

隊員たちは今ごろ拷問を受けているに違いない。
いざという時は、捕らえられるより早く、自害する。
そういう決まりだったが、死ぬ暇もなく捕らえられたと見るのが自然と思えた。

どうする?

救出に向かうか、退却か。

精巧な罠だ。
闇雲に攻撃しても九分九厘、隊員たちの二の舞になる。
気配のない敵が恐らく大勢潜んでいる。
建物や周辺にも仕掛けがあるだろう。

急いで塞に戻り、救援を乞うか?
しかし敵がずっとこんなところで待っているだろうか。
自分なら、用の済んだ罠なら速やかに撤収する。

……そもそも、救出を考えるべきなのか?
拷問に耐え、秘密は漏らさず死んだと信じて、見捨てるべきではないか?
仮にその通りなら、危険を冒して救出に向かう意味はない。
まだ生きていたとしても、彼らは独断で行動したのだ。
処分される理由はある。

粗野で、尊大で、手前勝手な連中だった。

俺が子供だから何だ。
自分に能力がないから歳などで相手を見下すのだろう。
お前たちの誰が俺より速く駆けられる?

殺してやりたいと思っていた。
あんな奴ら、死んで当然だ。

月が煌々と照っている。
夜明けまでは、まだ時があった。
posted by 森山智仁 at 19:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月14日

少年パルタ13

リリカラ湖周辺の調査を終え、帰途であった。
国王軍の倉庫を見つけた。

それ自体は特筆すべき発見ではない。
地図に記して終わりである。
任務は遊撃でなく調査なのであって、今、攻撃する理由はない。

倉庫の守りは手薄であった。
少なくともパルタの隊の者にはそう見えた。
否、パルタにも確かに脆い守りと思えた。
この人数でも容易く落とせそうだと、全員が感じた。

大人しく調査をして帰るだけでは芸がない。
僅かでも隙が見出だせたなら、
命令であろうとなかろうと叩くべきではないか。
隊の者たちは激しくそう主張した。

しかしパルタは攻撃を禁じた。
何であれ、勝手な判断で、軍から受けた命令以外の行動を取るべきではない。
まして初の作戦行動である。
全員無事に帰還し、きちんと報告を行うことが最重要だとパルタは言った。

隊員たちは不満げな表情を隠そうともしなかった。
それでも、攻撃は遂に実現することなく、その日も普段通り天幕が張られた。

「腰抜け」
「所詮は餓鬼」
そう囁き合う声が聞こえた。

パルタは聞こえていない振りをして、
寝袋に入り、目を閉じた。

目が覚め、異変に気付いたのは、夜半であった。
posted by 森山智仁 at 01:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月13日

少年パルタ12

規律を乱す者や、命に従わぬ者は処分せよ。

情報戦を制さずして勝利はない。
然るに隠密の担うものは極めて重い。
お前の隊が他のどこよりも厳格に統率されていなければならぬ。

足を引っ張る者は迷わず殺せ。

ウトゥクから、口をすっぱくしてそう言われていた。

しかし、まだ幼いパルタに味方を殺す度胸などありはしない。
隊員たちは皆それをよく心得ていて、
任務の最中も塞にいる時と変わらず、
パルタを無視し、嘲笑した。
当番で行う夜営の仕事もいつからか全てパルタがやっていた。

パルタは苛立ちを募らせていた。
アウカ人から祖国を取り戻す為に集まったのではないのか。
何故味方同士憎しみ合わなければならない?

本当に殺してやろうか。
何度もそう思った。
思うばかりだった。

統率は乱れたまま、それでも任務は進行していた。
少なくとも今のところ敵方に目立った動きはない。
地理を把握していくだけで済んだ。
posted by 森山智仁 at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月31日

少年パルタ11

パルタたちが加わって三ヶ月。
反乱軍はリリカラ湖の水塞の奪取に向けて動き出した。
ラブラスとワカタイは内情を探る為、志願兵として水塞に入った。

パルタは、あろうことか、一隊の隊長を命じられた。

反乱軍と水塞がぶつかれば、
国王軍がそれに乗じて両者を潰そうとすることは十分に考えられる。
そこで、国王軍の動きを掴み、機あらば戦力を削る、
隠密隊とでも呼ぶべき部隊が編成された。

パルタが配されたのはその一隊である。
そこまではいい。
速く駆けられることが重要な意味を持つ部隊だ。

しかし、隊長とは。
指揮など習ってもいない。

そして、隊員たちの顔触れを見て、不安は憂鬱へと変わった。
パルタを嫌う男たちばかりが集められていたのである。

最初の任務はアラカチャから説明された。
リリカラ湖周辺の、索敵。

特に、敵方にも隠密の気配がないか探れと言われた。

任務はとにかくやってみなければわからない。
けれどそれ以前に、パルタにはこの一隊を率いて動く自信が、
全くと言っていいほど無かった。
posted by 森山智仁 at 02:01| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月29日

少年パルタ10

パルタはやはり、目立つ存在だった。
アラカチャもウトゥクも、パルタに目をかけていることを隠そうともしない。
それ故に、この少年を疎ましがる者もあった。

中でも、一部の年かさの男たちは露骨にパルタを煙たがった。
聞こえよがしに陰口を言ったり、調錬の伝達事項をわざと間違えて教えたりした。

パルタは気にしないようにしていた。
意識しなければ、さほど気にもなることでもなかった。

ところが、否が応にも気にかけざるを得ない事態になった。
posted by 森山智仁 at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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