そして現在、反乱軍はリリカラ湖の水塞の奪取を目論んでいる。
ある晩、ウトゥクは久方振りに、アラカチャと二人で酒を酌み交わしていた。
「パルタの帰りが遅いな」
ウトゥクが言った。
パルタに指揮をさせた隠密部隊はもう帰還していてもいい時期だった。
「心配しているのか?
キノアとかいう奴は平気で放り出したくせに」
「あいつはなるようにしかならん。
万が一育てば儲け物だ。
だがパルタにははっきりと期待をかけている」
駿足。
それも並外れている。
大きな戦になれば、通信が果たす役割は爆発的に増えるだろう。
パルタが将来力を発揮するには、
年長の者たちに彼を認めさせ、彼自身も苛烈さを持つ必要がある。
その為の編成をした。
さぞ辛い思いをしているだろう。
恨まれてすらいるかも知れない。
「それより、頭領。
そろそろ聞かせてくれ」
「何をだ?」
「水塞に送り込んだ二人だ。
何故あの二人にした?」
ラブラスは王の戦士団の出だが、決して器用な方とは思えない。
ましてやワカタイは不器用が服を着て歩いているような男だ。
何故彼らを潜入させたのか、その理由をウトゥクは聞いていなかった。
「話は単純だ。
あの二人に情報収集など期待していない。
あいつらは、先鋒」
「先鋒?」
「元より策略や話し合いであの水塞が取れるはずがない。
戦って奪うしかないと見定めている。
一騎当千の味方が敵陣の真ん中にいれば有利になる、それだけのことだ。
個人の力量で見て、俺たちの中で一位と二位と言えばあの二人だろう」
「それは、お前も含めてか?」
「ああ」
ウトゥクは少し意外に感じた。
ラブラスはともかく、ワカタイに対してまでアラカチャが自分を下に見るとは。
「技ではラブラス、力ではワカタイ。
脚が武芸に活かされればやがてはパルタにも及ばなくなるだろう。
俺自身の素質は大したものではない」
アラカチャは変化している。
以前ならこんなにあっさりと兜を脱ぎはしなかった。
「だが、頭領はお前しかいない」
ウトゥクは敢えて口にした。
他人に言われなくても十分にそう認識しているだろう。
案の定アラカチャは相槌も打たなかったが、その顔はまんざらでもなさそうだった。