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劇団バッコスの祭主宰の連続恣意的漫談
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2012年03月03日
少年パルタ18
冬の風を想像した。
冷静に、駆け通す。
急がなければならない。
しかし、焦って脚を壊してもいけない。
反乱軍の本隊は既に全軍が出動した。
非戦闘員も連れ、拠点を放棄しての大移動である。
リリカラ湖の水塞を奪い、新たな拠点とする。
奪えなければ全員が路頭に迷うことになる。
パルタは先行していた。
志願兵として塞に潜り込み、ラブラス・ワカタイと連携して、内部で反乱を起こす。
混乱させたところに、本隊が攻め入る。
内外から同時に崩す算段である。
「火蓋を切り落とせ」
アラカチャの言葉が、耳の奥で響いていた。
posted by 森山智仁 at 08:40|
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小説『太陽の鎖』
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2012年02月16日
少年パルタ17
「仕掛けるぞ」
翌朝、アラカチャが言った。
「仕掛ける、とは?」
「リリカラ湖の攻略を開始する。
引っ越しだ」
急過ぎる、と思った。
潜入したラブラスたちからの知らせもまだない。
「尚早だと思うか?」
「いえ」
「お前の責任だ、パルタ」
アラカチャは目の色一つ変えずに言い放った。
「お前の部下たちが吐かされたらしい」
背筋が凍った。
やはり、拷問を。
「ここの内情は知られた。
締め付けが強くなってきている。
近いうちに攻撃が来るだろう」
唇を、噛み締めた。
「なら、俺も」
「なんだ?」
「処断してください」
「お前は子供だ」
「頭領までそんなことを言うんですか」
「子供だから殺さないんじゃない。
いいか、お前の脚は俺たちのものだ。
そしてお前は後悔の末、仲間を斬る覚悟もできた。
そうだな?」
「はい」
「使えるから殺さないんだ。
役に立て」
「はい」
アラカチャの手が、パルタの肩を強く叩いた。
気迫が流し込まれるようだった。
「身につけるべきことはまだいくらでもある。
成長しろ、パルタ。
それが子供の役目だ」
posted by 森山智仁 at 08:37|
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小説『太陽の鎖』
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2012年02月13日
少年パルタ16
「自分で処断すべきでした、せめて」
いつの間にか、全て話していた。
ウトゥクには心を開かせる力がある。
「規律を乱す者は斬れと言われていたのに、できませんでした。
ただの仕返しになってしまいそうで」
「そうか」
「ぐずぐずしているうちに、
結局彼らは死なせてしまったし、
俺たちの情報も漏れたかも知れません」
パルタは俯いて話していた。
「あの編成に意図があったことは、理解しているな?」
「はい」
「あいつらに飲まれてしまうならお前はそれまで、と思っていた。
よもやこんな結果になるとはな」
「次は斬ります」
ウトゥクが、おや、という目でパルタを見た。
「今度は、きっと斬ります。
甘さは捨てます」
こんな後悔の仕方は、もう二度としたくなかった。
posted by 森山智仁 at 08:55|
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小説『太陽の鎖』
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2012年02月08日
少年パルタ15
アラカチャに報告を済ませ、三日間、膝を抱えて過ごした。
命令を聞かない、それどころか今まで以上に陰惨に自分を苛める年上の部下たち。
手柄を立てに勝手な行動を取った彼らを、パルタは結局、見捨てた。
その場で救い出そうともしなければ、救援の要請もしなかった。
敵方にもやはり隠密があり、その襲撃を受けて犠牲が出たと報告した。
正確には襲撃を受けたのではなく、罠に掛かったのだ。
体を休めるよう言われていたが、ほとんど眠れなかった。
ともあれ四日目には立ち上がり、いつも通り調錬に加わった。
「何があった」
ウトゥクが声をかけてきた。
アラカチャの右腕であるこの神官くずれは、何かとパルタを気にかけてくれている。
posted by 森山智仁 at 09:54|
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小説『太陽の鎖』
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2012年01月21日
射手ムムシュ7
「噂は聞いていますよ。
しかしただの噂と思っていました。
まさか実在の方で、こうしてお会いできようとは」
よく喋る。
男はラヤンと名乗っていた。
「あなたのような方が、
一体何故突然、王の戦士に志願を?」
「理由が必要か?」
「お聞かせください。
あなたが反乱軍の手先という可能性もあるのですから」
言ってやればいい。
隠すような話でもない。
「射たい相手が、反乱軍にいる」
ラヤンは少し間を置いて言った。
「私怨ですか」
「似たようなものだな」
「暗殺はお得意なのでは?」
「的と定めたものだけを射るのが流儀だ。
反乱軍の警戒はザルではない。
暗殺を成すには的以外の者も倒さねばならない」
こんなに長く言葉を続けるのはいつ以来だろうか。
このラヤンとかやら、妙な奴だ。
俺は今喋らされている。
「国王軍に入れば、反乱軍を的と見る理由ができる」
「なるほど、よくわかりました。
筋の通ったお話です」
「入隊を認めるのか?」
「いいえ」
睨み付けたムムシュに、ラヤンは微笑んだ。
「あなたほどの方が一兵卒など勿体ない。
それより私と組んでいただけませんか?」
「俺ほどの、か。
不可解だな。
俺の存在など噂だと思っていたのではないのか?」
「ええ、ただの噂だろうと。
そして万が一実在するならば、
是非お近付きになりたいと」
「組むとは体よく言ったものだが、
要はお前の手駒になれということだろう」
「そうですね、そう取っていただいても」
少しだけ考え、ただちに決した。
遅く決める者は射手に向かない。
「わかった。
まず何をすればいい?」
「こちらをご覧ください」
ラヤンが地図を広げ、一点を指した。
「ここに倉庫を作ります」
こんな田舎の倉庫番か?
口には出さなかったが、ラヤンは感じ取っているだろう。
「ムムシュさん、“捕える”矢は射れますか?
殺さず、動きを止める為の矢は」
「無論」
脚などを狙うだけのことだ。
「では、この倉庫に近付く者を捕えてください」
「罠か」
「ええ」
面白くなりそうだ。
口にはしなかったが、ラヤンには伝わっているだろう。
posted by 森山智仁 at 08:35|
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小説『太陽の鎖』
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2012年01月13日
射手ムムシュ6
もう一撃。
強く引き、慎重に腱を狙う。
放った。
巨体が僅かに動く。
矢は刺さったが、急所は外れた。
と同時に、子狗が鋭く地を蹴り、こちらに向かって駆け出した。
しまった。
方向を探っていたのか。
知能、ただの噂ではなかった。
息を殺した。
悟られたのは方向だけ、位置までは知られていない。
道具袋に手を入れた。
矢に鏑玉を取り付け、少し離れた樹に放った。
森中に破裂音が響き渡る。
子狗が樹に駆け寄る。
掛かった。
知恵比べならば人間の本領、譲るわけにはいかない。
子狗が樹の回りをうろついているうちに、
弓をきつく張り直し、
矢尻を毒に浸した。
卑怯などとは思わない。
始めは毒を使わずに勝負してみたかったが、
必要があるなら使うだけのことだ。
全力で引き絞る。
巨体の上、避けようとはしない。
狙いは多少大雑把で構うまい。
放った。
矢が巨狗の脚をとらえた。
受けた巨狗は駆け出そうとした。
しかしその脚はもう地を蹴ることはできなかった。
勝負はついた。
あとは子だ。
親の元に戻り、身を案じているところを狙えばいい。
こちらぐらいは毒無しで勝負しよう。
機を伺っていたムムシュは、思いもよらぬものを見た。
人間。
剣を帯びている。
狩人か?
そうは見えない。
狗の親子に攻撃しようという気配はない。
それどころか、親狗の姿に呆気を取られている。
ただの旅人か。
まぁ、構うことはない。
子狗の姿が見えた。
親狗と、旅人のすぐ近く。
子の動きはかなり速い。
この距離ならば矢を避けることもできるだろう。
ならばもう一度攻めてこさせた方が狙いやすい。
子狗のすぐそばの樹に、誘いの矢を射た。
来る。
向かってくる的を射るのは実に快感だ。
優越感に浸れ、容易でもある。
容易な、はずだった。
目を疑った。
旅人が子狗の背に跨がっている。
何故?
奴は何者だ?
俺のことは見えているのか?
ムムシュを動揺させたのはそれらの疑問だけではなかった。
真っ直ぐな怒りが、
歪んだ悲しみを乗せて、
突っ込んでくる。
旅人のことなど何も知らないが、
ムムシュには確かにそう見えた。
その異様な威圧感が手元を狂わせた。
矢は子狗の脇をすり抜け、闇に吸い込まれた。
狙いを外したことでさらに焦躁し、次の矢も外した。
そしてムムシュがその次を番えるより早く、子狗と旅人はムムシュの姿を見つけた。
疾い。
牙と、剣。
生まれて初めて死の恐怖を感じた。
樹の枝から落ちるようにして辛うじて避けた。
煙玉を投げ、どうにか逃げ切った。
闘志が燃え上がった。
あいつらは、的だ。
「いつか射抜く」
いつか。
ムムシュは繰り返し呟いた。
posted by 森山智仁 at 23:23|
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小説『太陽の鎖』
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2012年01月11日
射手ムムシュ5
人が定住し国が建つ遥か昔、
この地に暮らしていた動物がいる。
その大半は人間に住みかを追われ消え失せたが、
稀に、険しい山や奥深い森の中で生き延びているものもある。
彼らはしばしば巨大な図体と知能とを持ち合わせ、
俗に魔獣と呼ばれる。
白き狗。
臥せて家屋ほどもある堂々たる体躯。
依頼は森に住み着いたその魔獣を狩ることだった。
ムムシュにとっては新鮮な依頼だった。
人以外の標的などいつ以来だろう。
いや、それよりも、
単純な狩り、悪意のない依頼というものがほとんど初めてだった。
七日間、森の中を歩き回り、ようやく見つけた。
巨体を上手く隠し、気配も殺していた。
意外だったのは、親子であることだった。
子供の存在は依頼人も知らなかったようだ。
しかし親子だからと言って不都合があるわけでもない。
両方とも狩ればいい。
楽しみが増えたという程度に考えた。
逡巡なく、射た。
矢が親狗の脚に刺さった。
子の方が素早く身構え、毛を逆立てた。
ところが親は身動ぎもしない。
奴にしてみれば小さな棘が刺さったようなものなのだろう。
「面白い」
ムムシュは呟いた。
ただの的としては大き過ぎる。
当てるだけで終わりでは張り合いがない。
posted by 森山智仁 at 09:36|
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小説『太陽の鎖』
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2012年01月08日
射手ムムシュ4
どんな依頼でも分け隔てなく受けた。
ある時は、野盗からの依頼で、
森の中の小さな村に赴き、祭の日の夜、見張りを射倒した。
猟師の血筋か訓練の成果か、いずれにしても夜目は利いた。
依頼は見張りを倒すことだけで、
それ以上深入りはしなかったので、
村がその後どうなったかは知らない。
的と見定める。
狙いをつける。
相手が何だろうと、外す気はしなかった。
矢は必ず思い描いた通りの軌道を描いた。
しかし、村を出てからこれまでに一度だけ、
ムムシュが狙いを外したことがあった。
posted by 森山智仁 at 12:28|
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小説『太陽の鎖』
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2012年01月06日
射手ムムシュ3
村を出たムムシュは何度か野盗の仲間になったが、
人間関係が煩わしくなり、いつも長続きはしなかった。
しかし噂はすぐに広まった。
凄腕の射手がいる。
どこにも属さず、秘密を漏らすこともない。
やがて、暗殺の依頼が来るようになった。
住みかを転々としても依頼は途切れることがなかった。
密かな殺意は世に溢れていた。
ムムシュは殺したい理由など問わない。
ただ“的”が定められることを喜んだ。
アウカ人が現れてから、依頼はさらに増えた。
依頼人が、国なのか、アウカ人なのか、
あるいは最近まとまり始めた反乱軍とやらなのか。
自分の弓が誰の益になっているのか。
そんなことには一切興味が沸かない。
呼吸をするように、的を射続けた。
posted by 森山智仁 at 22:46|
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小説『太陽の鎖』
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2012年01月05日
射手ムムシュ2
初めて射た人間は父であった。
誰よりも早く起き、
狩りに出かける父を、
樹上から射た。
矢は吸い込まれるように額を貫いた。
不意に子どもの手から放された人形のように、
父はあっさりと倒れた。
気付く者は誰もいない。
時おり鳥のさえずりだけが聞こえる。
俺が、奪った。
血潮が駆け巡る。
この感触。
知ってしまった。
もう戻れない。
ムムシュは引きつったような笑みを浮かべ、
太陽が顔を出す頃、
静かに村を離れた。
posted by 森山智仁 at 16:44|
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プロフィール
名前:森山智仁
職業:劇団バッコスの祭 主宰
年齢:32
趣味:読書・創作・放浪・麻雀
住所:東京都
Twitter:@bacoyama🎵
個人サイト「森小屋」
【劇団バッコスの祭】
アンネの日記、新撰組、ガリレオ・ガリレイ等、歴史上のネタを独特な切り口で大胆に再構成し、現代の真理を描く。
メッセージ性を重視しつつも割とコミカル。
池袋演劇祭において「大賞」を含む五連続受賞を果たした。
参加者・お手伝いさん随時募集中。
【次回予告】
森小屋
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『マイ・スイート・ベイビー』
2016年3月12日(土)14:00/18:15
三軒茶屋 GRAPEFRUIT MOON
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