の前に、先に総括をしておくことにする。
何しろ反省点が多過ぎるのである。
×コンパスが不安定
これが最大の問題であった。
最初はなにげなく水平を取り、進行方向の方位を測って、メモしていた。
ある時、どう見ても北東なのに、南東を示していることに気付いた。
逆上しながら本体をグルグル回したり再起動したりしてみたが、状況は変わらない。
人類の叡智の結晶たるiPhone本体のコンパスがこんなに狂っているはずがない。
鉄鋼を大量に積んだトラックが横を通った時、針がぶおんと大きく揺れた。
そして僕は気付いた。
「鉄のせいだ!」
周辺の「鉄」がiPhoneに強い影響を与えていたのである。(多分)
ああいうのがあるともう無理
コンパスが利かないなんてのは、富士の樹海とか、そういう特殊な場所での話だと思っていた。
とんでもない。
コンパスはとても繊細な人だったのだ。
伊能隊もコンパスを使う為、計測者は腰の刀を竹光にしていたという。
それを僕は「粋」の一種だと思っていた。(何故だ)
そうではなくて、普通に実務的な意味で鉄を遠ざけたかったのだ。
甘く見ていたことは反省する。
しかし町中にいる以上、鉄から完全に離れることは不可能だ。
試行錯誤の末、地図アプリを併用するという方法で落ち着いた。
左下の矢印を押すと、本体が今向いている方向が表示される。
今おれ真南向いてるはずなんだけど右上の表示は……こんなことはザラ
表示上の進行方向と実際に進もうとしている方向を合わせ、それからコンパスを見る。
つまり彼の勘違いに話を合わせてあげるということである。
ひとまずこの方法で明らかなミスは防げるようになった。
とは言えスマートで正確な計測とは程遠い。
iPhoneの仕様なのか普通のコンパスでも同じなのか?
それは比較していないのでわからないのだが。
×歩測が不正確
事前に張り切って自分の歩幅を測ったわけだが、実際の歩測は困難を極めた。
1.道がまっすぐじゃない
横断歩道が内側に食い込んでいたり、カーブが緩やかだったりと、とにかくまっすぐじゃない。
2.歩幅が安定しない
「強く踏み込む」幅で測ろうとした為、体力の消耗が激しく、みるみるうちに短くなっていった。
つまり全然正確な距離は測れていない。
それでも僕は歩数カウントを続けた。
やめようかと何度か思った。
もう二度とやりたくない。
頭の中は数字で埋め尽くされる。景色など見ているとすぐにわからなくなる。
×数珠が切れた
100歩をカウントする大事な数珠が早々に切れた。
いつか訪れ得る事態だとは思っていたが、まさか開始から30分以内とは。
願いが叶うわけではない
以降は極めて原始的に「指」で数え続けた。
新しい数珠を買えばよかったのだが。
×勾配は諦めた
平坦じゃない地面は勾配を測らなければならないのだが、とても無理だった。
平坦じゃない道ばかりだった。
まるで人生のようだ。
×電車に乗った
伊能隊が1日40kmやったのだから、25kmぐらいならやれるだろう。
と思っていたが、曲がり角ごとに歩数と角度をメモするのは予想以上に手間だった。
歩いている間は時速5km近く出ていたはずだ。
しかし立ち止まっている時間を含めると、時速3kmぐらいでしか進んでいなかった。
あまりにしんどくて、途中2回、計10kmほど電車に乗った。
曲がり角が多過ぎる住宅地を避ける意味もあった。
たくさんの妥協を抱えて、ひたすら方位と歩数を書き留めた。
もはや「測量」とは呼べない。
それは「儀式」であった。