洋画を敬遠しがちな理由は殆んどこれに尽きる。
顔だけでなく、名前を覚えるのも苦手だ。
しかし僕は小説を読む時、メモを取ったり引き返して読んだりするのが好きではない。
これは演劇に携わっていることに由来する、一種の意地のようなものだと思う。
演劇の上演は観客が何かを忘れてしまっても無慈悲に進行してゆく。
つまらない意地を捨てて、利を取ることにした。
初登場時、その人物の名前に鉛筆でマルを付ける。
するとどうだ、たったそれだけで随分と記憶が定着するようになった。
後戻りすることも滅多にない。
僕は発見を喜ぶと共に、指先と脳味噌との密接な繋がりに感心させられたのだった。
『悪霊の島』は決して登場人物の多い作品ではない。
それでもこの「マル付け法」を実践しなかったら、上巻を読み終えた時点で僕は主人公の二人の娘の名前すら覚えていなかっただろう。
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「過去に戻りたいか」という質問に対して、ワイアマンとイルサ、それぞれに違う答えを言ったエドガー。
どちらも本心なのだろう、と安易な見方はしたくないが。
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