後年、彼女はこの歌集におさめられた若い歌を嫌い、何度も手直しをしている。
(手直しによって劣化したとする見方が多勢を占める)
が、代表作が『みだれ髪』であることは、本人がどう望もうと変更し難い。
晶子の生涯には、俯瞰した限り、スランプらしきものは見当たらない。
むしろ夫の黄金時代が早々に終わってしまい、
家族を支える為にはスランプに陥っている余裕などなかったらしい。
立ち止まることなく書き続け、書いたものは売れたが、
とにかく今、教科書に載っているのは『みだれ髪』である。
後期の歌にも良いものがたくさんあるが、
辛酸を舐め、経験を積み、円熟した歌よりも、
初期の未熟な(本人に言わせれば)歌の方が強く記憶されている。
デビューが鮮烈過ぎて、後の作品に光が当たりにくくなっている。
けれど「この人と言えばこれ」という作品を一つこの世に残せれば、作家として十分に幸福なことだ。