数学の先生の言葉で強く心に残っているものがある。
「いちいちコンパスなど使わないでいい。
フリーハンドできれいな円を描けるようになった時が、
数学が身についた時だ」
かっこいい、と思った。
そうなのだ。
毎日、日々、日夜、積み重ねた結果として「プロ」という状態がある。
収入のありやなしやーーあるいは意識、
そういったものより遥かに重要な地点に、
「研鑽しているか」という尺度がある。
きれいな円をフリーハンドで描く。
その技術は一朝一夕では習得できない。
またそれ自体を目的とした練習をしても何の意味もない。
数学を賢明に学んだ結果としてのみ得られる。
30歳まで残り1年。
僕は一体いつきれいな円が描けるようになるだろう。
劇作家としても、劇団の運営も、僕には足りないものがまだたくさんある。
数学を愛するその先生はフリーハンドで、
ほとんど真円を描いていた。