アクセスランキング

2012年01月21日

射手ムムシュ7

「噂は聞いていますよ。
しかしただの噂と思っていました。
まさか実在の方で、こうしてお会いできようとは」

よく喋る。
男はラヤンと名乗っていた。

「あなたのような方が、
一体何故突然、王の戦士に志願を?」
「理由が必要か?」
「お聞かせください。
あなたが反乱軍の手先という可能性もあるのですから」

言ってやればいい。
隠すような話でもない。
「射たい相手が、反乱軍にいる」

ラヤンは少し間を置いて言った。
「私怨ですか」
「似たようなものだな」
「暗殺はお得意なのでは?」
「的と定めたものだけを射るのが流儀だ。
反乱軍の警戒はザルではない。
暗殺を成すには的以外の者も倒さねばならない」

こんなに長く言葉を続けるのはいつ以来だろうか。
このラヤンとかやら、妙な奴だ。
俺は今喋らされている。

「国王軍に入れば、反乱軍を的と見る理由ができる」
「なるほど、よくわかりました。
筋の通ったお話です」
「入隊を認めるのか?」
「いいえ」

睨み付けたムムシュに、ラヤンは微笑んだ。
「あなたほどの方が一兵卒など勿体ない。
それより私と組んでいただけませんか?」
「俺ほどの、か。
不可解だな。
俺の存在など噂だと思っていたのではないのか?」
「ええ、ただの噂だろうと。
そして万が一実在するならば、
是非お近付きになりたいと」
「組むとは体よく言ったものだが、
要はお前の手駒になれということだろう」
「そうですね、そう取っていただいても」

少しだけ考え、ただちに決した。
遅く決める者は射手に向かない。
「わかった。
まず何をすればいい?」
「こちらをご覧ください」
ラヤンが地図を広げ、一点を指した。
「ここに倉庫を作ります」
こんな田舎の倉庫番か?
口には出さなかったが、ラヤンは感じ取っているだろう。

「ムムシュさん、“捕える”矢は射れますか?
殺さず、動きを止める為の矢は」
「無論」
脚などを狙うだけのことだ。
「では、この倉庫に近付く者を捕えてください」
「罠か」
「ええ」

面白くなりそうだ。
口にはしなかったが、ラヤンには伝わっているだろう。
posted by 森山智仁 at 08:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック