しかしただの噂と思っていました。
まさか実在の方で、こうしてお会いできようとは」
よく喋る。
男はラヤンと名乗っていた。
「あなたのような方が、
一体何故突然、王の戦士に志願を?」
「理由が必要か?」
「お聞かせください。
あなたが反乱軍の手先という可能性もあるのですから」
言ってやればいい。
隠すような話でもない。
「射たい相手が、反乱軍にいる」
ラヤンは少し間を置いて言った。
「私怨ですか」
「似たようなものだな」
「暗殺はお得意なのでは?」
「的と定めたものだけを射るのが流儀だ。
反乱軍の警戒はザルではない。
暗殺を成すには的以外の者も倒さねばならない」
こんなに長く言葉を続けるのはいつ以来だろうか。
このラヤンとかやら、妙な奴だ。
俺は今喋らされている。
「国王軍に入れば、反乱軍を的と見る理由ができる」
「なるほど、よくわかりました。
筋の通ったお話です」
「入隊を認めるのか?」
「いいえ」
睨み付けたムムシュに、ラヤンは微笑んだ。
「あなたほどの方が一兵卒など勿体ない。
それより私と組んでいただけませんか?」
「俺ほどの、か。
不可解だな。
俺の存在など噂だと思っていたのではないのか?」
「ええ、ただの噂だろうと。
そして万が一実在するならば、
是非お近付きになりたいと」
「組むとは体よく言ったものだが、
要はお前の手駒になれということだろう」
「そうですね、そう取っていただいても」
少しだけ考え、ただちに決した。
遅く決める者は射手に向かない。
「わかった。
まず何をすればいい?」
「こちらをご覧ください」
ラヤンが地図を広げ、一点を指した。
「ここに倉庫を作ります」
こんな田舎の倉庫番か?
口には出さなかったが、ラヤンは感じ取っているだろう。
「ムムシュさん、“捕える”矢は射れますか?
殺さず、動きを止める為の矢は」
「無論」
脚などを狙うだけのことだ。
「では、この倉庫に近付く者を捕えてください」
「罠か」
「ええ」
面白くなりそうだ。
口にはしなかったが、ラヤンには伝わっているだろう。