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2011年06月30日

戦士ラブラス14

「突然失礼した。
私は近頃塞に加わった者で、ラブラスという」
「調錬のお姿は拝見しておりました。
素晴らしくお強いんですね」
「いや、大したものでは」

つい目を逸すと、壁に何枚もの木の板がかけられているのに気付いた。
不思議な模様が描かれている。

「これは?」
「文字、と呼ばれるものです。
カプよりも複雑な情報を伝えることができます」
異国にはそういうものが存在すると聞いたことはある。
だが必要だと思ったことはなかった。

「君が考えたのか?」
「これは、アウカ人が扱う文字です」

どういうことだ?
「何故君がこんなものを?」
「ラブラス様はご存じないかも知れませんね。
この塞にはアウカ人の隊長様がいらっしゃるのです。
彼は命がけで元いた軍を裏切り、私たちの味方になってくださったのです」
初耳だった。
そんな人間がいるなら、目立たないはずはないのだが。

「彼はどこの隊に?」
「それが、今は牢獄にいらっしゃいます。
ロコト様の大切な方を手にかけたという疑いで。
そんなことをなさるような方ではないのですが」

敵軍の造反者。
今はまだどうとも評せない。
アウカ人というだけで憎しみを感じるわけではないが、顔すら知らない。
わかっているのは、この娘は彼をかなり信頼しているらしいということだ。

「では、このモジとやらは彼から?」
「はい。
これからの国づくりには欠かせないものだと思っています」
娘はラブラスの顔を見ながらきっぱりと言った。
穏やかそうな瞳から放たれる、意志の光。
やはり似ている。

「国づくり?」
「僣越ながら、私はこの塞で、
戦に関与しない物事の一切をロコト様からお任せいただいております。
備蓄の管理から糞尿の処理に至るまで全て」
ならば、この塞の居心地の良さは、少なからず彼女の力ということか。
「大したものだ、それは」
だが、国づくりとは。

「塞が独立を目指しているという話は、お聞き及びですね?」
「ああ」
「もしそれが実現したら、私は今よりもずっと住み良い国を作りたいのです。
豊かで、平等で、争いのない国を。
今はその時の為の勉強をさせていただいております」

祖国を捨てるのか。
喉まで出かかったが、飲み込んでしまった。

この塞を奪い、アウカ人を排除する。
祖国の為にはそうしなければならない。
しかしその道は、この純真な娘の夢を潰す道でもあるのだった。
posted by 森山智仁 at 21:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説『太陽の鎖』 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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