これまでそんなにたくさん村上春樹を読んできたわけではないが、これがデビュー作と言われてなるほどと思えるぐらい、僕はなんだかんだ村上春樹が好きなのだと思う。
「鼠の小説には優れた点が二つある。
まずセックス・シーンの無いことと、それから一人も人が死なないことだ」
と、こんなことが書かれている。
かく言う『風の歌を聴け』でセックス・シーンが無いかと言うと、進行形では、確かに無い。
僕の知る限り、後の作品と比べると驚くほど「清純」である。
多分村上春樹にとって、クラッカーを何枚か食べる、ということと、女の子と寝る、ということの間に、本質的な違いはない。
しかしそれはきっとさほど特殊な感覚でもないのだろうと思う。
わかる人にはわかる、のだろう。
この本を読み終える前に、少女漫画『君に届け』第五巻を読んで、切なくて座布団などをばんばん叩いていた僕である。
片や、千鶴は徹におめでとうを言い、片や、『風の歌を聴け』の主人公は今までどんな女の子と寝たかという話をしている。
宇宙は呆れ返るほど広大である。
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